大阪・関西万博が開会して数日、会場となる夢洲(ゆめしま)が話題を集めている。
この人工島では、万博の設営について未完成のものがある中、隣接地で日本初のカジノを含む統合型リゾート(IR)の建設も動き出している。
4月24日には本体工事が始まる予定で、2030年の開業を目指すこのプロジェクトは、大きな期待とともに、いくつかの懸念も生んでいる。
夢洲の未来はどうなるのだろうか。
夢洲の二つの顔:万博とカジノ
夢洲は、かつて産業廃棄物の処分場として使われた人工島だ。
地盤の軟弱さやアクセス面の課題から、長らく開発が難しいとされてきた。
それでも大阪府・市は、ここで2025年の万博を開催し、さらにその北側でIRを整備する計画を進めている。
万博は「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに掲げるが、すぐ近くでカジノを中心とした施設が建設されるのは、どこか対照的な印象を与える。
万博の準備には課題が多い。建設費は当初の1250億円から3187億円に膨らみ、海外パビリオンの遅れやメタンガス対策など、問題が続いている。
そんな中、IRの工事が万博期間中も進められる予定で、一部からは「万博に集中すべきでは?」との声も上がる。
実際、万博の成功を優先したい経済界や博覧会国際事務局(BIE)は、工事の一時中断を提案したが、大阪側はスケジュールを維持する方針だ。
両プロジェクトのバランスが、気になるところだ。
IRが描く未来と、その不確実性
IRの推進側は、カジノが大阪の経済を活性化し、観光客を呼び込む鍵になると強調する。
IRにはカジノだけでなく、ホテル、商業施設、会議場などが含まれ、事業者の大阪IR株式会社(米MGMリゾーツ・インターナショナルとオリックスなどの連合)は、1兆円超の投資で年間5200万人の来場者、8600億円の経済効果を見込む。
観光都市としての大阪の魅力が高まる可能性は、確かに魅力的だ。
ただ、この数字には慎重な見方も必要だ。
カジノの主な客層は外国人観光客とされるが、日本にはすでにパチンコや競馬などギャンブル市場が存在し、新たな需要をどれだけ生み出せるかは未知数だ。
海外では、シンガポールのような成功例がある一方、期待したほどの経済効果が得られなかった地域もある。
地元への還元も、事業者の利益が優先されると限定的になる可能性があり、バラ色の未来が本当にか描けるのか、考えてしまう。
インフラ整備と市民の負担
IRの整備には、夢洲のインフラ整備が欠かせない。当初は「民間資金で賄う」とされていたが、実際には公費も投入されている。
道路や交通網、地盤改良などの費用は、当初の3400億円から7500億円に増え、府・市民の税金が使われる部分も少なくない。
万博とIRのインフラ整備が重なることで、費用がさらに膨らむ懸念もある。
また、事業の透明性にも課題が残る。例えば、用地整備の入札では、予定価格を事業者に事前に伝える仕組みが議論を呼んでいる。
コスト管理がしっかり行われるのか、市民に分かりやすく説明してほしいところだ。
万博とIRが一体的に進む中、負担の線引きが曖昧にならないよう、注意が必要だろう。
ギャンブル依存症への心配
カジノの導入で気になるのは、ギャンブル依存症の問題だ。日本ではパチンコなどで約320万人が依存症の疑いがあるとされ、カジノが加わると影響が広がる可能性がある。
推進側は、入場制限や相談窓口の設置など対策を掲げるが、海外の事例では、こうした取り組みだけで問題を防ぐのは難しいケースも見られる。
カジノの収益が一部の人の苦しみにつながるなら、慎重に考えるべきだ。
もちろん、IRはギャンブルだけでなく、観光やエンターテインメントの要素も大きい。
それでも、依存症のリスクを軽視せず、十分な支援体制を整えることが、夢洲の未来には欠かせない。
万博跡地のこれから
万博閉幕後の夢洲はどうなるのか。
府・市は、会場跡地を「エンターテインメントゾーン」や「IR連携ゾーン」など4区域に分け、サーキットやウォーターパーク、高級ホテルなどを整備する案を示している。
ただ、現時点では具体的な計画が少なく、どんな価値を生むのか見えにくい。
万博のレガシーをどう活かすのか、市民が納得できるビジョンが待たれる。
一部では、「万博はIRのための布石だったのでは?」との見方もある。
インフラ整備を万博の名目で進め、カジノの基盤を整える――そんな意図がもしあるなら、市民への説明がもっと必要だ。
夢洲の名前には希望が込められているはずだが、プロジェクトの進め方次第で、そのイメージが変わってしまうかもしれない。
夢洲にどんな未来を
夢洲は、万博とIRという二つの大きな計画が交錯する場所だ。
観光や経済の起爆剤になる可能性は確かにあるが、費用負担や依存症リスク、計画の不透明さなど、気になる点も多い。
本当に大阪に必要なのは、こうした大型プロジェクトだけなのか。
市民が安心して暮らせ、誇れる街づくりとは何か。
夢洲の未来を考えるなら、華やかな目標だけでなく、現実的な課題にも目を向けるべきだろう。
カジノの着工が近づく今、じっくり考える時間はあるのだろうか。